顧客中心の考え方から製品主体のアプローチ採用まで、CIOは継続的な業務改革をさらに推進するためにITのストラクチャや戦略を再考しています。 クレジットShutterstock CIOとそのITチームは近年、権力と名声の上昇を享受しています。企業の経営幹部が継続的な変革、デジタルのすべて、多数の新興技術を受け入れているからです。 その結果ほとんどのIT部門の予算が増加し、より多くのスタッフがサポート受け、企業戦略の策定により深く関与するようになってきたとの報告が相次いでいます。 しかしながら、多くのIT部門は現在の使命を果たすための自己改革に苦労しています。 専門サービス会社のアクセンチュア社からの報告を見てみましょう。2023年発行の研究論文『Total Enterprise Reinvention』によると、トータル・エンタープライズ・リインベンション(企業全体の再創造)の戦略採用に向けて動いている企業はわずか8%に留まっています。 その一方アクセンチュア社は、86%を「リインベンターズ」と見ています。これらの企業は、「業務全体ではなく、その一部を再創造すると言う意味です。継続的プロセスとしてではなく、限定的なプログラムとして再創造に取り組んでいるのです」 しかしさらなる向上を求める企業もあり、リインベンターズの43%がパフォーマンスの向上に努めています。 その方法の1つはIT部門の再考であり、経営コンサルタントやエグゼクティブアドバイザー、またCIO自身などがそれに当たります。この再創造はクラウドやアジャイル開発の原理、最先端のテクノロジー採用の範囲を超えています。それは、テクノロジー組織が広範の企業への提供を求められている継続的変革と歩調を合わせるために、IT自体がどのように作用し、スケーリングし、進化するかを変革していくということです。 「保守的な企業は、ビジネスニーズと変革目標に一致する明確な役割や責任を持って、リーダーのペースに従わなければなりません」と、IT サービス企業のTEKsystemsで最高テクノロジー責任者を務めるラム・パラニアパン氏は述べています。 デジタルサクセスを実現するIT変革に向けた戦略には以下が含まれます。 1.真に顧客中心の考え方 顧客を大切にする行動は実を結びます。管理コンサルティング会社のマッキンゼー社によると、顧客エクスペリエンスを向上する企業は売り上げが7%上昇し、収益性が1%から2%向上しています。 これらの数字は IT内で顧客中心の考え方を開発するのに説得力のある事例です。 しかしながら、Info-TechリサーチグループでCIO実務を務めるリサーチダイレクター主任のマニッシュ・ジェイン氏は、多くのIT部門がカスタマーアウトカム(顧客成果)よりも製品要件を満たすことに集中しすぎていると述べています。 「多くの企業が製品やユースケース中心になっています。ITはそれらを超え、顧客に対するバリュープロポジションを考える必要があるのです」 ジェイン氏はまず「顧客」の定義を理解することから始めなければならないと語り、それを「企業のサービスや製品の恩恵にあずかるすべての人」と定義してます。 その定義はシンプルですが、多くのIT部門は自身の顧客を識別する能力に欠けていると氏は語っています。「ほとんどの場合ビジネス(ニーズ)についてのみ考えており、そこから先に進めていない」と述べており、顧客中心に考えるということはまた、それぞれの顧客接点の向上を目標としたポイントソリューションの提供以上が求められていると付け加えています。 デジタル企業のウェストモンロー社が2023年に発行したレポート『The Digital Disconnect: Linking Vision to Real-World Execution』ではこの点について述べており、 企業の86%が自社を「顧客が求めるデジタル製品やデジタル体験の提供に長けている」と評価していますが、同社の製品スコアカードで9ポイント中4ポイント以上を獲得したのはわずか17%にすぎません。 それを向上するためには、エンドツーエンドのカスタマージャーニーという視点と、およびそのジャーニーに沿った改善の余地のある領域への見識をIT部門に与えるプロセスやポリシーをCIOが作成する必要があるとジェイン氏は述べています。テクノロジーチーム内でより顧客中心の考え方を高めるベストプラクティスには、アジャイル開発方法論の採用や顧客中心の重要業績評価指標の設定、および業務上のサイロを打破するための業務部門横断的な取り組みなどがあります。 2.クラウドの適切な活用 「クラウドの活用もまた、野心と現実が一致していない領域です」とジェイン氏は語っています。 CIOは長年にわたってリフト&シフト戦略を採用し、新しい環境で最適なパフォーマンスを達成するための再構築をせずに、既存システムをオンプレミスサーバーからクラウドに移行してきたとジェイン氏は述べています。 これらのCIOは、一般的にクラウド移行への出発点としてそのようなアプローチを取ったのでした。しかし、組織がクラウドコンピューティングを採用して10年以上経った今でも、多くのITチームはそれらのアプリケーションを再構築していません。 「スケーリングする計画はなく、柔軟性を向上するためのリファクタリングも行わず、その結果、コストが急上昇したのです」とジェイン氏は語っています。同氏はクラウド戦略にFinOpsを採用するようアドバイスしました。これは、テクノロジーチームがクラウド展開に必要なすべてのソフトウェアの増分費用に目を向け、ビジネス目標と提携し、クラウドへの投資が利益をもたらすようにFinOpsが会計実務とビジネス戦略、およびITクラウド実務をまとめることができるからです。 「つまりFinOpsは、クラウドの正確なアーキテクチャと設計に焦点を当てる助けをしてくれるのです」とジェイン氏は述べています。 3.イノベーションチームの作成 IT部門は過去の共有サービスモデルの先を進み、現在は事業部と緊密に連携しています。従って、IT出費全体からみたIT運用の予算配分は少なくなり、ビジネス主導型のIT改革に向けた資金は増加しています。 この新しい環境においてITは2本柱の戦略が必要となり、それはコスト最適化へのフォーカスとデジタル改革であるとパラニアパン氏は述べています。 「組織は自動化によるコスト削減の機会を継続的に捜すことによって、IT運用を最適化するべきです。IT組織はサポートを求める顧客からの資金に頼ることはできません。それはいまサービスレベル合意書に代わり、サポート削減が目標になっているからです」と述べています。 2本目の柱に対し、パラニアパン氏は「特定の収入源をもたらすソリューションを構築して展開することが大変重要です」と語り、CIOがAIテクノロジーや自動化、データを採用する必要性を強調しています。 情報テクノロジー、コンサルティング、ビジネスプロセスサービスを提供するウィプロ社のアメリカ支社でCIOを務めるラジーヴ・ピッライ氏は、そのような措置を講じました。同氏は、組織のニーズを満たす新興テクノロジー使用というアイディアの推進を目指し、組織のベンダーやパートナー、および外部のリサーチアナリストと協力するインキュベーションチームを結成しました。 このチームにはリーダーが2人おり、テクノロジーの使用方法を探る際は必ずスポンサーとテックリードを組ませることでビジネス目標との整合性を保っていると同氏は述べています。 しかしここで氏は、改革のマンデートはこのチームのためだけに存在しているのではないと語り、通常のIT運用に従事するスタッフも含め、自身のスタッフ全員が新しいテクノロジーを学び、限界を押し広げてほしいと望んでいます。 氏はまた、ビジネスに連携したサービスデリバリーマネージャーというポジションを作り、現在40名ほど雇用されています。このポジションは「顧客が抱える問題に耳を傾け、テクノロジーを利用して問題の解決法を見つける」ことにフォーカスを当てています。「これは我々が顧客のスペースに入るための意図的な試みと言えます」 4.ITチームの自身に対する視点を変える モンタナ大学のCIOを務めるザック・ロスミラー氏は、継続的な変革を進めるには、ITチームが改革を単なるタスクとして捉えてはならないと信じています。ITチームはむしろ、企業を成功に導くためにテクノロジーを使用する改革者として自身を捉えなければならないと述べています。 彼は、自身のスタッフに対しても自身の捉え方を変えるよう強く求めています。 「私のスタッフにも、ITをデジタルの改革と成功を推進するソートパートナーとして受け入れるよう奨励しています。我々はバックエンドプロセスを知っているし、システムも知っています。我々は変化を推進することができるのです。ITでそれを達成するのは困難なこともあるのです」 以前チームメンバーから、学生の保持率向上とIT作業はどのような関係があるのか尋ねられた氏は、その挑戦を受けるために一歩踏み出しました。チームは自身をどのように捉えているのか、その見方を変えるために様々なアプローチを取り入れました。例えば、テクノロジーの性能が学生の経験にどう影響するかなどについてわかりやすく説明しました。つまり学生の保持率などの重要業績評価指標です。その結果ITリーダーは、IT業務が大学の目標に与える影響、およびその影響度を把握するために、年間目標を設定し、四半期おきに状況を確認し、毎月評価するようになりました。 「大学は毎年、優先事項を記した年間プレイブックをリリースします。我々はその優先事項を確認し、実行中のプロジェクトをリストアップし、それらのアライメントが取れているかをチェックします。アライメントが取れていない場合は再度考えます。取れている場合は、学生の成功やリサーチの卓越性を推進するものとしてこれを強調するのです」とロスミラー氏は述べています。「日々の仕事が大学の任務推進に役立っていることに気づけば、そこから成功が生まれるのです」 最近ITスタッフの一人がID管理の問題を表面化させました。大学のID管理システムが古いために関係者全員にとって問題になっており、古いアーキテクチャのサポートにユーザーからITスタッフまでイライラしていると指摘したのです。 氏は、問題を指摘したスタッフの能力を評価し、さらなる向上を提唱しています。そのどちらも数年前に比べて現在のITチームでは頻繁に行われるようになったことです。 「スタッフが自分たちがここにいる理由、そして自分たちはただ便利な存在だけではないと理解していることを示しているのです。我々は変化を推進するエージェントなのです」 5.スタートアップの精神力を育成 IT部門は、スタートアップ時に存在したような機敏な小チームに対しては、スタッフを総動員する大きな試みを断念する必要があります」 と、『Demystifying IT』の共同著者であり、ブティック型コンサルティング会社のCG Infinity社長、サラジ・カヌンゴ氏は述べています。 CIOは多くの正式なやりとりを減らし、より迅速な意思決定を推進しなければならないと氏は語っています。「まず初めは総力を挙げてのアプローチではなく、自分たちでコントロールできることだけに集中するネイビーシールズアプローチから始めます。スタートアップの精神を持ち、ネイビーシールズのアプローチを取ることには、大企業にとっても非常に大きな価値があるのです」 これを実証するために、氏は創業100年の大企業がデジタルエンティティへと生まれ変わった成功例を挙げました。同社のCEOは、新たな部門を作ったり多くの人材を雇用する代わりに、まず小規模のチームにデジタルプラットフォームを構築させ、プラットフォームが新たな機会や収入を生み出すにつれスケールアップしていきました。プラットフォームの成功により、同社は徐々にデジタル主導の企業へと変貌を遂げていきました。 総力を挙げてのアプローチは、市場が急速に変化する現代のデジタル時代に求められるアジリティを実現できないと同氏は語っています。「2時間のミーティングに60人参加したら、意思決定をして先に進むことは不可能です。20人でも時間がかかり過ぎます。全員に同じ認識を持たせるだけでも大変な時間がかかるのです」と氏は述べています。 カヌンゴ氏は、スタートアップ/ネイビーシールズの精神を好んでいますが、それはチームが小規模なだけでなく、成果をもたらす仲間意識を持っているからです。サイロ化(たこつぼ化)を防ぐために各部門からスタッフを集め、大型チームを作るという意図は理解できますが、「通常は一緒に働いていないスタッフを同じプロジェクトに合流するという事態が起こっている」と説明しています。仲間意識が不足しているため、チームの勢いを得るためにかなり時間を費やすことになり、共通の目標やなすべきことに全員の足並みを揃えさせるのは大変な作業となります。 「そこで私はネイビーシールズのアプローチに戻るのです。任務重視の小規模なチームで、仲間意識もあり、任務に集中することができるのです」 6.アジャイル活用の推進 IT部門は自身の継続的変革の一環として、過去数年間に新しい働き方を採用しました。その1つが技術的な機能と能力を提供するためのアジャイル方式の採用です。 アジャイルへの移行により、ITはビジネスニーズや市場の需要により迅速に反応できるようになりましたが、多くのIT部門はアジャイルの使用を改善する必要があると考えていると、デジタルサービスコンサルティング会社のウェストモンロー社でシニアパートナーを務めるアンディ・シーロック氏は述べています。 「ウォーターフォール(開発手法)からアジャイルへの移行はしばらく続いていますが、ほとんどの企業はまだ移行が完了していません」と氏は語っています。 Scaled Agile Framework(SAFe)や同様のフレームワークを使用する多くの組織は、まず複数の領域でのみアジャイル方式を取り入れ、時間の経過とともに使用を拡大する計画を立てています。 しばらくはそれも可能であり、ITプロジェクトの中には従来のウォーターフォールアプローチを使用できるものもありますが、IT部門は競争力を維持するためにアジャイルとDevSecOpsの使用を成熟する必要があると氏は述べています。 「人々が使いたいデジタル製品にとっては、従来の方法では時間がかかり過ぎるのです。プロジェクトが始まったときにはもう遅すぎ、市場は先に進んでしまっています」 同氏は、アジャイル方式を完全に採用するために必要なトレーニングとツールをITチームに提供し、ITとこの方法で連携するためにビジネスサイドの同僚を教育するようCIOにアドバイスしています。 7.製品主体のアプローチの活用 ITがプロジェクト主体のデリバリーアプローチから製品主体のアプローチに移行する必要性を挙げている人は他にもいます。製品主体のアプローチとは、ITの歴史の大半を占めてきたインフラやアーキテクチャのコンポーネントではなく、特定のテクノロジー製品中心にITチームを編成することです。 インフォシス・コンサルティングのパートナー、およびCIOアドバイサリーのグローバル代表を務めるマイク・シャシリク氏は、ほとんどの企業はこの道のりの途中にあるけれども、成功への責任をIT部門とビジネスチームが共有する成熟した製品環境にある組織はわずか一部だと述べています。 「まだしなければならないことは山積みです」と氏は付け加えています。 IT部門にはもちろん、テクノロジーのインフラとシステムの管理に焦点を当てているスタッフがまだ存在していると氏は述べています。しかしCIOは、チームをTechOpsから離れさせ、代わりにデジタル製品やサービス中心にチームを編成する必要があります。そこでの成功尺度は、ITの従来の成功指標ではなく、これらのテクノロジーがビジネスニーズをどこまで満たしているかに依存しています。 「製品チームとの相違点は、彼らのビジネス志向です。製品アプローチは、問題ステートメントを提供するためにITとビジネスリソースのより密接な統合を実現します。IT部門は、「期限内」「予算内」が成功の証であるいう考えから離れ、価値を提供するために何を生み出す必要があるかを理解するようになるのです。 関連コンテンツ オピニオン CIOがAIに光を与える5つの方法 現在の誇大宣伝と主流採用のレベルにもかかわらず、AI世代は生産性のピークへの道を歩み始める前に、幻滅の谷を経験する必要がある。 著者: Nicholas D. 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