Karin Lindström
Redaktör

ボルボにおけるデジタル実用主義 – 制御の強化とアジャイルの削減

特集
14 Nov 20231分
自動車産業デジタルトランスフォーメーションIT戦略

ボルボ・カーズは、そのビジネスモデルと製品において大きな変革を進めています。それに伴い、コアシステムが交換および標準化され、デジタル組織内での作業方法が厳しくなりました。

Tobias Altehed, head of digital core, Volvo
クレジットVolvo

自動車業界では電気推進エンジンのテクノロジー採用が急速に進み、ボルボ・カーズは明確な野心を持ち明確な先駆者となるために全力を尽くしています。

内燃エンジンと比較して根本的にシンプルなテクニカルプラットフォームへの変化はまた、市場においてこれまでと異なる原動力を生み出しています。その結果、多数の新規自動車会社が設立され、競争が激しくなっていると、ボルボ・カーズのデジタル組織を先導し、同社の拡大管理チームに属するトビアス・アルテヘッド氏は述べています。

社内でのソフトウェの開発が急速に進み、車に搭載されるようになってから、車に使用するソフトウェアとハードウェアのバランスもまた変化しています。このような大きな変化と並行し、ボルボはビジネスモデルをリセットし、世界各地のディーラーがボルボ・カーズを販売するだけでなくディストリビューターになるというビジネス拡大において、ボルボ・カーズはビジネスモデルを再設定し、直接販売に切り替えています。

「以前は顧客と直接コンタクトを取ることができず、顧客のすべてのデータにアクセスすることはできませんでした。顧客と直接コンタクトが取れるようになった現在は、顧客が購入・リースする車の使用期間中ずっと顧客との関係を構築できるようになったのです」とアルテヘッド氏は述べます。

広範囲におけるこのような変革が、事業の前領域における大きな変更からシステムランドスケープまで、デジタル組織の中核に影響を与えます。

同氏はまた、ボルボのシステムは1970年代に開始したメインフレーム環境から、近年採用されたモダンテクノロジーとツールまで50年間に及んでいると語っています。

「すべてを近代化するまでにはあと10年から20年かかるかもしれませんが、当社全体の変革に関連する優先分野を近代化することでバランスを取っています」と語ります。

システムに関するレガシーのほとんどは、ボルボ・カーズがボルボグループから独立する以前のものです。1999年、ボルボ・カーズがフォードに買収された際に、複数の次世代ITプロジェクトが実施されました。コアシステムの中には2000年代初頭にさかのぼるものもあります。2010年、ボルボ・カーズが吉利汽車に売却された際に地理的な拡大が達成されましたが、デジタル分野を近代化するという徹底した包括的な取り組みはこれまで行われなかったと同氏は述べています。

「当社は特定の機能を徐々に加えていく能力には長けていましたが、それらの削除はうまくいかず、現在広範囲のテクノロジーに対応しなければならない状況になっています。コアシステムの切り替えと近代化を開始した今言えることは、現行のシステムが他と比べて劣っていたり安定化していないということではなく、また高価であるというわけではないのです。車業界が急速に発展しており、当社のシステムランドスケープを我々の望むように迅速に変更できないというのが主な理由です」

厳しいシステムチェンジ

組織の骨格を構成するコアシステムの切り替えは容易なことではありません。業務システムからPLMシステム、製造システム、そして購買やロジスティックスおよび人事のシステムまですべてに取り組む必要があります。特に製品のライフサイクルを管理するPLMシステムの変更は、大変困難なものの1つです。

「当社の現在のシステムは1970年代に構築され、製品に関するすべての情報が含まれていますが、すべての機能が今後発売予定している製品やサービスに必要なわけではないのです。そのような理由から現在、将来に向けて標準システムの採用に取り組んでいます」

それに加え、現在のシステムはポイント・ツー・ポイントで接続されている多くのシステムを搭載しています。

「当社の現在のPLMシステムはおよそ500以上のシステムと直接統合されていることが、この問題をさらに難しくてしているのです」とアルテヘッド氏は加えます。

システムの切り替えが進む今、そのような接続のない新たなアーキテクチャ構築にも取り組んでいかなければなりません。しかし優れたITシステムをすぐに構築することは大変困難です。ここでは段階的な導入が必要になります。「たとえば、スロバキアに新たに工場が建設される際も、新たなシステムのみで一から始めるわけではないのです。すべて新規導入すればいいと思われるかもしれませんが、多くの実証されていない技術を取り入れるというリスクは冒したくありません。まず初めは、これまでの技術と共に、他の工場で実証済みの新たなソリューションを採用する必要があります」

クラウドジャーニーの完了

ボルボ・カーズはシステムランドスケープの変更前にクラウドジャーニーを完了しました。アルテヘッド氏が2019年から携わり、現在も進行中の大きなプログラムの1つです。「当社はデータセンターから離れる計画を立て、それを実行しました。一年以内にクラウド移行を完了し、システムが変更する大部分の環境はクラウドホスティングされるようになりました。メインフレーム環境などのみがまだホスティングされていません。クラウド移行してからシステムがより安定し、セキュリティが向上しただけでなく、システム切り替えにおける今後の作業がより簡素化されるようになります」

現在はほぼ標準システムとなり、これまでと違いできるだけシステムを修正しない戦略を立てています。

「過去に標準システムを使ったことがありますが、ユーザーの多くの要件に合わせて修正しなければなりませんでした。標準システムをあまりにも修正したために、そのシステムが持つ利点を生かすことができないこともありました。ですから、早期にユーザーにシステムを紹介した場合でも、それはユーザーが自身の要件を書き留めるためではありません。これまでどのように使用してきたかではなく、どのように標準システムを使用できるかを理解することが重要になるのです。ユーザーは標準システムがどのように作動するかを学ぶことができ、それはビジネスにとって、およびデジタル組織のビジネスにとって大きな変更点となります。我々は当社ビジネスへの社内サプライヤーになるのではなく、当社のデジタル製品の開発に大いなる責任を負わなければならないのです」

アジャイルの削減

デジタル組織が最近行った変更には、純粋なアジャイルアプローチから離れることもあります。

ボルボ・カーズのデジタル部門は、2018年、プロダクトアウトの車種にてSAFフレームワークに従ってよりアジャイルなワーキングスタイルを開始しました。しかし大きな利点には欠点も伴っていました。

透明性が高まり、未処理案件への取り組みで開発ペースが向上しましたが、アジャイルチームに明確なフレームワークが不足したためにチームに何が求められているかが明らかにならず、間違った方向に進むチームが出るためにペースが遅くなったのです。

「ガバナンスや制御の削減によっては達成されていませんが、それによって、明確な原則とガイドランによってフレームワークを構築し、チームが自身の作業を理解することが重要であると認識できました。チームが自身の能力を自覚しながらも何をすべきかを決められない時に、より自主的にまた迅速に作業ができるようになったのです」

その結果、スクラムマスターやリリース・トレイン・エンジニアなどは必要なくなり、プロジェクトマネージャーやプログラムマネージャーなどが復帰しました。

「また以前のような働き方もするようになりました。アジャイル開発で成長し拡大した新規のテクノロジー企業からの新しいスキルから多くのことを学びましたが、それによってより優れた実用的なモデルを開発することができたのです」と語ります。

アルテヘッド氏は、複数の領域におけるアジャイルワーキング手法においては意見が対立すると確信しています。

「我々は早い段階でアジャイルを取り入れましたが、よりバランスの取れたアプローチによって早い段階でアジャイルから離れました。これまでの経験から学び、それに応じて適応していくことが重要だと信じています」

開発者をより満足させる

この10年間でボルボ・カーズはソフトウェア企業へと移行しており、現在ではデジタルスペースのみでなく、ビジネスの製品とより密接なつながりを持っています。加えてより外注が増え、これは開発者の増加を意味しています。また社員が落ち着いて作業ができる職場環境を生み出す社内文化に対する新たな要求が高まっています。

開発者の雇用時から最初のプログラム完成までの期間をなるべく短期に抑え、スムーズなスタートにも取り組んでいます。ここでは作業ツールへの迅速な、また適切なアクセスが重要になってきます。

「当社のツールボックスは、開発者のコミュニケーションとプログラムのニーズを満たすために拡大されました。純粋な開発ツールに加え、そのコミュニティではSlackは強力なツールとしてコラボレーションやコミュニケーションを促進しており、ビジネスのその他の領域ではTeamsも使用されています」

またマネージャーやソフトウェアエンジニアの職をはじめ、様々なタイプのキャリアパスの構築も必要です。アルテヘッド氏は、大きな変革を遂げようとしている企業や業界で働くことには明らかな利点があると感じています。

「ビジネスは変化を続け、デジタルソリューションへの必要性も変化しています。これはシステムランドスケープの変革を正当化する必要がないことを意味しています。それは説明するまでもなく明白なことなのです。当社では、アジャイルフレームワークをあえて変更し、能力開発に投資し、我々のような伝統ある企業にて開発者が活躍できる環境を構築することで、社内に変化を起こしていくことなのです」