著者: Paula Rooney
Senior Writer

CIOが陥りがちなクラウド戦略の失敗例

特集
09 Jul 20231分
クラウドコンピューティングクラウドマネジメントIT戦略

エンタープライズITは、クラウドによってますます活性化されています。しかし、成功の青写真を把握していないITリーダーは、フラストレーションが溜まり、実装に失敗し、コスト面で大きな失敗をする可能性があります。

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クレジットShutterstock

クラウドの導入が急ピッチで進み、ITリーダーはこのプラットフォームに本格的に取り組むようになってきています。しかし、クラウドで成功するのは容易ではありません。2022年度、CIOはさまざまな形でクラウド戦略に失敗したと業界のオブザーバーは述べています。

典型的なクラウド戦略の上位を占めるのは、「クラウド戦略はITだけの取り組みである」「すべてのデータをクラウドに移行しなければならない」「クラウド戦略はデータセンター戦略と同じである」。精神的な青写真の欠点に該当する3つの間違いです。

Liberty Mutualの上級副社長兼CIOのJames McGlennon氏は、保険会社の高度なクラウドインフラを開発する際に、これらの戦略的優先事項で失敗したことがあると認めます。

「この3点はまだ完成への途中経過に過ぎません」とMcGlennon氏は言い、間違いを発見して修正することが、より健全なクラウド変革につながると付け加えます。「当社は、エンジニアリング、レジリエンス、スケーリング、セキュリティ、市場テストで得られる影響力について、より詳しい分析情報を取得しながらクラウド戦略を進化させ続けています」

ビジネスとITの整合性 — クラウドの技術力と組織のビジネス目標との組み合わせはすべてのクラウド導入過程での最優先事項ですが、CIOにとっては依然として難しい課題です。

「ITのアジェンダがビジネスプランに沿ったものであることを保証するためには、経営幹部レベルのエグゼクティブが関与する必要があります。これはITに関連する彼らの業務なのです」と、イリノイ州セントチャールズに拠点を置く元CIOのPaul Ingevaldson氏は述べ、これはすでに過ぎ去った事であるはずだと加えます。

「これは委任することはできませんし、CIOに発言権はありますが、明らかにCIOの仕事ではありません。もうこの問題は議論すべきではないのです」と同氏は嘆きます。「CIOにとって当然のことです」

2022年の終わりを迎え、CIOは、クラウド戦略が健全であればあるほど、ビジネスの成果が上がることを理解しています。しかし、これらのクラウド戦略でよくある失敗例が示すように、期待はずれの青写真に突き進んでしまうことがよくあります。

行くも地獄戻るも地獄

CIOは、単独で行動し、すべてのデータをクラウドに移行することを主張し、データセンターと同じようにクラウドにアプローチすることに加えて、クラウド計画1.0が失敗した場合の出口戦略を持たず、クラウド戦略の実装が遅すぎたと考えることによってデジタルトランスフォーメーションの領域について間違った考え方をしていることが多く見られます。

調査会社Gartnerは、クラウドの出口戦略は、CIOができるだけ低コストで欠陥のある実装からの救済を可能にするための必須の「保険」であると指摘しています。しかし、このようなバックアップ計画はしばしば抜け落ちてしまうとアナリストは指摘しています。

その一方で、多くのCIOは、クラウドによるITの恩恵を受けるには遅すぎるという誤解を抱いています。しかし関連するツールセットやサービスは豊富で成熟しており、実装がはるかに容易になったため、クラウド導入を始めたばかりのCIOは初期の導入者よりも有利な場合もあります。これにより、クラウドトランスフォーメーションはより低コストで実行でき、優れた結果がもたらされるとCIOは述べています。

米国貿易特許庁(USPTO)のチーフクラウドエンジニアであるDawei Jiang氏は、「クラウドコンピューティングを急ぐよりも、待ったほうがいい場合もある」と主張します。「誰にでもロードマップはあるものです。焦らず、ベストでスマートな解決策を選び、無駄な作業を省いてください」

ブーツと靴のメーカーであるWolverineは、セレンディピティによってこの点を証明しました。同社はコロナ禍にクラウド導入を一時中断し、ハイブリッド/クラウドへの移行を遅らせたのです。ハイブリッド/クラウドは、新たに利用可能なツールとクラウドを最大限に活用するのに適したIT文化を考えると、最近飛躍的に進みました。

表面的なプラニング、さらにひどい例では戦略のアウトソーシング

Gartnerによると、CIOは、クラウド戦略と実装計画を混同したり、「幹部の権限」や「クラウドファースト」のモットーと実際のクラウド戦略を混同したりして、始めからクラウド戦略に失敗してしまうこともあります。このようなクラウドへの表面的なアプローチは、後悔の念を抱かせることになるとGartnerは述べています。

さらにひどい例では、クラウド戦略をパートナーに丸投げしている企業もあるとGartnerは主張します。たとえば、Microsoft、Amazon、Google、およびITアウトソーシングのトップ企業など、1つのクラウドベンダーに企業のクラウド戦略を設計させることは大きな間違いであるという点で、GartnerとCIOの考えは一致しています。

各企業のデジタルトランスフォーメーションの青写真は独自のものであり、成果を最適化するためには経営幹部とITチーム全体がすべてのITシステムを深く掘り下げる必要があるとアナリストは指摘します。第三者は、幹部や従業員ほどその企業を把握していません。

クラウドベンダーは、特定の目的のためにカスタマイズできる型にはまった設計図のコレクションを作成してきましたし、ITコンサルティング会社は企業のクラウド戦略の実装を支援するうえで役立つとGartnerは断言します。しかし、どんな場合でも、クラウドベンダーやコンサルティング会社が戦略的な青写真を主導するべきではないとアナリストやCIOは言います。

「戦略を推し進めるだけで、マネジメントや幹部の能力を見ないことが最大の失策かもしれません」とカリフォルニア大学サンディエゴ校のCIOであるVince Kellen氏は説明します。同氏は大学のクラウド戦略構築のために、コンサルティング会社出身の2名の幹部を大学のIT職員として採用しました。

「コストと品質の両面で逆境に打ち勝つために、CIOは部署内で高いチームIQを維持する必要があります。つまりIT部門は、コスト削減や品質向上のために、現地の状況を技術ソリューションに反映させることができなければなりません」とKellen氏は述べていますす。

省略することの大罪

クラウド戦略を策定する際にCIOが陥りがちなさらに3つの間違いを指摘するクラウド専門家もいます。

IDCのアナリストであるDave McCarthy氏は、CIOがクラウド戦略を構築する際によく犯す間違いは何かという質問に対して、「クラウドのためのアーキテクチャがない」と答えています。「既存のワークロードを『リフト&シフト』することは可能ですが、このアプローチではコストやパフォーマンスが望ましくないことがよくあります。価値を最大限に発揮するためには、アプリケーションをクラウドネイティブの概念に合わせる必要があります」

また、IDCのクラウドおよびエッジインフラストラクチャサービス担当リサーチバイスプレジデントのMcCarthy氏は、CIOは「十分な自動化を実装していない」というミスもよく犯すと述べています。「クラウドのベストプラクティスには、インフラストラクチャやアプリケーションのデプロイメントから管理、セキュリティにいたるまで、すべてを自動化することが含まれます。サービス停止やセキュリティ侵害の多くは、手作業による設定ミスが原因です。

しかし、おそらくCIOが犯しうる最悪の罪は、クラウド戦略を考案し、成功させるために必要なカルチャーやスキルの変化を考慮した計画をたてないことであると、さまざまな分野のアナリストの意見が一致しています。クラウドは従来のITシステムとは機能が異なるため、クラウド戦略には新しいスキルが必要なだけでなく、環境の設計や管理方法に関する考え方も変えなければならないとMcCarthy氏は述べています。

「クラウドに移行するときは、自転車からハイパフォーマンスな乗り物に乗り換えるようなもので、以前[データセンターで]やったことが同じように機能すると想定することはできません。さもないと同じような問題を抱えることになります。正面から取り組まない場合、手に負えない費用が発生し、さらに自体がひどくなる場合もあります」とCienaのCIOであるCraig Williams氏は説明します。