著者: 松崎隆司

ローソン、レジ無人化先駆者としてのこれまでとこれから

特集
05 Jul 20233分
デジタルトランスフォーメーション小売業

流通業界のイノベーターとして知られるコンビニエンスストア。店舗数は5万店を超え、生活インフラとしては欠かせない存在となっている。しかしその一方で人手不足の蔓延で店舗店員の仕事の負担はどんどん膨らみ、店舗オーナーは頭を抱えている。こうした問題にいち早く取り組んできたのが大手コンビニチェーン、ローソンだ。店員にとってもっとも仕事の負担の大きい清算業務を効率化するために、自動釣銭付POSレジとセルフレジをいち早く全店に導入し、省人化を加速させた。

Lawson Self Checkout
クレジットLawson

大手のコンビニチェーンは最近でこそ、店舗の改革にも力を注ぐようになってきたが、以前は店舗網の拡大に躍起になり、既存店の改革には二の足を踏んできた。そのような中でローソンは店舗網拡大よりも既存店の効率化を図ることで収益の安定化を目指した。なぜ、既存店の効率化に力をいれたのか。

公正取引委員会は2020年9月2日に「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査」を発表した。調査は2019年10月から2020年8月にかけて全国5万7524店舗にWebアンケートでの回答を依頼し、1万2093店舗(回答率21%)が回答した。この調査によると、本部に対する満足度は「大変満足している (加盟して良かったと感じている)」が4.6%,「おおむね満足している」が28.1% と肯定的な評価も3割近くを占めた一方で、「あまり満足していない」が32.2%,「全く満足していない(加盟して失敗したと感じている)」が12.2%と否定的な意見が4割を超えた。

つまりコンビニ本部に不満を抱えている店舗のオーナーたちがかなりの数いるということだ。しかもコンビニの経営環境は厳しい状態が続き、コンビニの倒産・廃業は2010年から19年までの10年間に約3.5倍に拡大した。ローソンはこうした事態をかなり早い段階から察知し、危機感を持っていた。

「私たちは収益源はお店だと思っています。お店あってのフランチャイズなのです。だからこそ店のオーナーと力を合わせ、彼らの話をしっかり聞いて改革を進めていかなければならないと思っているのです」

ローソンのDX戦略の陣頭指揮をとっている常務執行役員でITソリューション本部本部長の佐藤達氏はこう語る。

ローソンは経営再建のために三菱商事から派遣された新浪剛史氏が社長に就任した2003年以降、年に2回、「オーナー福祉会理事会(前身は加盟店共済会)」を通してコンビニオーナーたちと意見交換会を開いている。

「店舗オーナーからは人手不足で困っているという声が上がっていました。こうした問題を解決するためには仕事のやり方を見直し、生産効率をあげていかなければならない。店舗がどのような状況なのか、つぶさに検証しました」(佐藤本部長)

調査は2006年からスタートした。佐藤氏らは、東京や郊外にある数十店舗を24時間ビデオで撮影し、どのような仕事にどれだけの時間をかけているのかを分析した。

「可視化しないと空中戦になるので、具体的な数字をしっかり押さえたいと思ったのです。オフィス街の昼にピークのあるようなお店ばかりを調べても仕方がないので、郊外店も調査しました」

コンビニ店員の主要な仕事は➀接客②精算(レジ)業務③商品の品出し・陳列④商品の発注⑤簡単な調理⑥コピー機・ATM・チケット販売機の管理⑦代行サービスの受付⑧店内清掃などがある。

こうした店舗内の業務のうちでもっとも時間を取られるのがレジでの清算業務であることが分かったという。

「店内のさまざまな業務の中でも精算業務は全体の15~20%くらいありました。そこで精算業務を簡略化していくことに注力しようということになったのです」(佐藤本部長)

そこで考え出されたのが自動釣銭機付きのPOSレジだ。

「清算業務でもっとも手間のかかる仕事がお金を数えてお釣りを渡すことなんです。アルバイトがお釣りを間違えるなんてこともありました。そこでその作業を簡略化できないか、ということで自動釣銭機の開発をしたのです」(佐藤本部長)

フルオートセルフレジを全店舗に

自動釣銭機に続いて登場したのがPOSレジと一体型のフルオートのセルフレジだ。19年2月にはコンビニ業界ではいち早く約1万4000店全店舗に導入した。 

セルフレジの開発を進めていたのは何もローソンだけではない。セブンイレブンは店員がスキャンで商品のバーコードを読み取り、お客がお金を投入精算して自動的に釣銭がでてくるPOSレジと一体型のセルフレジを20年9月から導入、現在は国内約2万1000店舗ほぼ全店舗(駅ナカなどの狭小店を除く)に設置、ファミリーマートもセルフレジの専用機を国内約1万6500店舗のうちの4割にあたる6600店に導入している。しかしフルオートのセルフレジを全店舗に導入しているのはローソンだけだ。セブンイレブンは今後、セルフレジの活用(お会計セルフレジの画面の位置を店員側からお客側に切り替えることでセルフレジにすることができる仕組みになっている)も検討しているという。

ローソンで最初にセルフレジが導入されたのは2010年頃。混雑時の精算業務を緩和することを狙ってセルフレジの専用機を開発したが、平均的なコンビニ店舗の広さは165~200平方m(50~60坪)、そこに3000アイテムの商品を並べる什器や冷蔵庫、ATM、コピー機、チケット販売機が配置され、レジには2台のPOSレジとファストフードやコーヒーメーカー、揚げ物のケースが所狭しと置かれている。大型店のように余分なスペースがなければセルフレジ専用機を設置することはできない。結局導入されたのは100店舗にすぎなかったという。

「セルフレジの導入については店舗のオーナーさんからも要望がありましたが、セルフレジの専用機は場所をとって非常に使いにくかったのであまり普及しなかったのです」(同)

そこで15年頃からセルフレジの改良が検討されるようになった。

それまで専用機として開発していたセルフレジを通常のPOSレジと一体化させ、レジの入力画面を店員側からお客側に反転させると、お客一人ですべての操作をできるようにした。「コンビニのスペースは決して広くないです。限られた人たちだけが使うセルフレジのハードウエアに大きな投資をしたくはありませんでした。お店のひとたちに新たに教えるのもたいへんです。その場所でレジをお客様に向けてスイッチを押すと通常のレジをセルフレジできるようにしたのが、このレジです」

Lawson Self Checkout

Lawson

今では人手不足が特に深刻な深夜の時間帯などで活躍、精算・レジ点検にかかる時間は1.5時間/人の削減につながっているという。

ローソンGOは採算性が課題

さらにセルフレジから一歩進み、2018年からはスマートフォンの端末を活用した「ローソンスマホレジ」を導入している。

「スマホレジはサラリーマンなどがお昼のピークタイムでレジの行列に並ばなくても弁当などを買うことができるように開発されたものです。ただ普及はまだ100店舗程度。最初の設定段階で決済をクレジットカードなどに紐づける作業をしなければならず、この点は改良していかなければならないと思っています」

レジの工程すべてをシステムで自動化する無人レジの開発にも力を入れている。セルフレジとは違い機械の操作もないから機械の操作が苦手な人でも対応できる。2020年からは専用アプリに表示されたQRコードを店舗の端末にかざして入店し、購入したい商品を手にもって店外にでると事前に登録したクレジットカードで自動的に決済できる無人レジ「ローソンGO」の実証実験を実施してきた。

Lawson Go

Lawson Go

Lawson

無人レジは店舗内の設置されたカメラがお客の動きを確認し、同時に商品棚の重量センサーで棚に並べられた商品の重さを感知、AIが来店客がどの商品を手にしたのかを判別。来店客はレジを通さずに買い物をすることができると同時に、店舗にとってはレジ対応の省人化やピークの時間帯の機会ロスの削減につながるという。

ちなみにセブンイレブンは人ならではのサービスにこだわり、無人レジの導入には慎重な姿勢を見せている。一方でファミリーマートは無人レジの開発を進めるTOUCH TO GOと提携し、21年3月31日からすでに駅ナカの小型店舗20店舗に実装を始め、全国で展開してくという。ローソンはなぜ無人レジの技術面での開発には成功していながら、店舗への実装には慎重なのか。

「ローソンGOは技術的には問題ありませんが、商品棚に重量センサーを設置することにかなりのコストがかかります。実装化した場合に、どれだけ売り上げがあれば採算がとれるのか、という点をもっと考慮しなければならないと考えています。小売の仕事というのはお客様に押し付けてしまう仕事というのは、最終的にはお客様に評価されなくなり、だめになってしまう。先端技術にばかりに目を向けるのではなく、お客様と店舗オーナーが納得する使いやすい仕組みつくりをしていきたいと思っています」

こうしたローソンの取り組みについてシステム開発に詳しいAIコンサルタントでConvergence Lab.の代表取締役CEOの木村優志氏は次のように分析する。

「無人レジの導入などが行われてれば、省人化とともにキャッシュレス化が進み、電子マネーに紐づけられた個人情報などを通してこれまで以上に購買者の個人データを収集しやすくなります。これがさらなる店舗改革につながるのではないかと思います。ただ利用者のITリテラシーにはまだまだ限界があります。これをどう変えていくのか、そこに大きな課題があるのではないでしょうか」